須江の風

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 かしわ谷を過ぎるあたりから
 道は曲がりくねった下り坂になり
 右手に折れる細い道をゆくと
 雑木林の向こうに
 あなたが育った家が見える
 わたしは
 その細い道をひととき眺めてから
 海辺に向かった
 晩秋の海は
 この季節に特有の深く透明な色で
 小さな砂浜にひたひたと波が寄せていた
 午後の陽がおだやかに落ち
 まるで小春日和のよう
 人の気配とてなく
 吹く風がほほを撫でる

 あの日
 母に頼まれて
 わたしは初めて巡航船に乗り
 叔母が病むこの島に来た
 雑木のなかの小道を抜け
 須江の海辺に降りると
 あなたは木陰にすわって
 デュ・ガールを読んでいたっけ
 わたしの会釈に軽くうなずき
 「・・・高校生?」
 とあなたはたずね 本を閉じた
 「・・・先月卒業しました」
 とわたしは答えた
 それから2時間も
 あなたはジャック・チボーについて
 わたしはケーキ創りの夢を語った
 早春の午後の出逢いだった


 あれから
 あなたは東京の大学に戻り
 わたしは神戸でパテシィエをめざした
 いくつかの手紙を書き
 いくつかの手紙が来た
 やがて
 それがまばらになって
 遠距離のときが
 それぞれに流れた

 神戸にいくから会わないかと
 あなたから1年ぶりの葉書
 懐かしい声がきこえるような筆使い
 元町の駅頭に来たあなたは
 黒のジーンズに白いシャツ
 手にはエンゲルスの本があった
 わたしが持っていったケーキをたべて
 ・・・これうまいなあ といって
 わたしを喜ばせた
 あれから
 ふたりの中間点の名古屋で
 なんども会ったね



 梅の香が漂いはじめたころ
 あなたの病が分かりました
 病室のベッドに横たわり
 ・・・こめんね とわたしに言い
 そうして
 初夏のころあなたは逝きました
 ただ泣き明かす日々が過ぎて
 いつの間にか
 わたしはこの島のすみずみに足を運び
 あなたを育てたこの須江の空気にひたり
 あなたにもらったデュ・ガールを手に
 小さな浜辺への道を降りてゆく
 そうして吹く風を体にうける

 わたしはいまもあなたを感じている



(あの頃のふたりにこの歌をささげます)
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# by hara-yasuhisa | 2016-12-19 09:35 | Comments(0)

 太宰治について問われて

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  久しい以前から、小林秀雄、加藤周一、そして宮本顕治の3人の文学観につて書いてみようと思いつつ、それをまだ果たせていない。

 先日、とある若い人から太宰治の「人間失格」について問われた。「あんなに繊細な小説を上手に書く人がなぜ死を選んだのか」と。自ら死を選んだ作家は太宰だけではない。そのうち、川端康成と三島由紀夫の文学についての小論を数年前に書いたことがある。

 加藤周一はかつて、「私は生前の川端康成に何度か会ったことがある。静かで、少しも傲らず、他人への配慮に繊細なその人柄から、私は常にこの上もなくよい印象をうけた。また私は昔からの読者の一人として、その著作に現代の日本文学を読むことの大きなよろこびを見出してきたのである。その川端康成の死後今日まで、私には容易に消えない感慨がある。さらば川端康成。これは私の知っている川端さんへの『さらば』であるばかりでなく、私の内なる『川端的』なものへの『さらば』でもある。前者は死別の事実に係る。後者は―『訣別の願望』である。おそらくは容易に実現されないであろうところの、しかし断乎としてその実現に向うべきところの」と書いている。このくだりはなかなか味わい深く読んだものだ。

 これは明らかに川端康成への追悼だ。最後の『訣別の願望』は、宮本顕治が芥川龍之介を論じた「『敗北の文学』を―そしてその階級的土壌を我々は踏み越えて往かなければならない」というくだりと重なってくる。加藤周一が『敗北の文学』を意識して書いたのどうかは分からないが・・・。

 もうひとり、太宰治について宮本顕治は人気のある作家だからといって太宰治の自殺を批判的に扱わないことは危険だとして、次のように書いている。
 「これは典型的な自己破産の文学であり生涯である。大地主の子弟としての環境で育った田舎風の貴族主義と皮相浅薄な左翼くずれ的な時代潮流、実生活無能力と放蕩的無頼さと病弱-この地盤に咲いた文学的才能が彼の文学の総和である」と。こう言い切れるところが宮本顕治の評論の素晴らしさであり魅力である。
 
 加藤周一は「太宰治は戦後のひとつの心理状態を描いて多くの読者をつかんだ。太宰の描いたものが現代のある心理的な相をもし捉えたものだとすれば、それが否定的な現実であってもある種の評価は成り立つだろう」と、太宰は否定的な現実ではあるがそれ自体は真実を描いているのだと評価した。

 宮本顕治は「太宰の作品は真実だ、しかしだらしがない、というのでは批評の統一性がないと思う。だらしがないというのは、生き方のなかでも、彼の描写のなかでも、真実に対決する勇気が足りなかったという点がある」と、現実との対決を避け、真実をとらえていないと太宰を批判した。
 そして、「自分および社会の本質をつかむということが真実なんだから、そういう立場から見て彼の作品は致命的な弱点を持っている」と述べている。



 (写真は本宮町)
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# by hara-yasuhisa | 2016-11-19 14:03 | Comments(0)

 古い時代のことば

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 「土人」「シナ人」などということばは戦前にはあったが、いまはもう死語だと思っていた。

 それが現職の若い機動隊員から沖縄県民に発せられた。ネットでその動画を見て慄然とした。この種のことばが、とっさに口をついて出るということはどういうことなのかと考えさせられた。

 ことばというものは実に生きものだと常々思っている。ある時代には生きていても、別の時代にはなくなっている。古いものは消えてゆき、新しいものが生まれてくる。

 「土人」や「シナ人」ということばは、それが「流布され」「通用した」時代があった。他民族より自分を優位ととらえ、他民族を蔑視するという、そんな古い時代のことばである。
  
 そんなことは今の世の常識であって、だから金田法務大臣は「土人」は差別用語だと述べている。しかし、鶴保沖縄担当大臣は「私が判断できるものではない」と公言してはばからない。この人物が沖縄担当大臣だというから、なんとも悪い冗談だ。

 沖縄県民を侮辱するために差別用語を口にする機動隊員も隊員だが、そのことの善悪の判断もできない大臣は大臣の名におよそ値しない。お粗末としかいうほかない。



(写真・・・大銀杏)
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# by hara-yasuhisa | 2016-11-11 12:49 | Comments(0)

 強烈な意見

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 「日本は核武装すべきだ」との強烈な意見が出された。一瞬、ほかの参加者に緊張が走った。この方は続けて、「自分は平和主義者だが、国力(軍事力)をつけないと中国やロシアから馬鹿にされる」と。

 「つどい」に出ると色んな意見が出される。「核武装」論は共産党の支持者でなくても反対の人が多いだろう。案の定、その場では次々に異論が続出したが、この方は持論を述べて譲らなかった。

 この方はよわい(齢)80を過ぎた方で戦争を体験されている。20分や30分の議論で自説を変えるなどありえないが、違った角度からの意見にも耳を傾けておられて、「つどい」は有意義だったと思う。

 みなさんが日曜版の宣伝紙を持って帰られた。



 写真・・・きょうの和歌山市内での「つどい」
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# by hara-yasuhisa | 2016-11-09 18:53 | Comments(0)

 おいやんとおばやんと

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 かつらぎ町新城を抜けて走った。
 逢うのは3年数か月ぶりやなあと思ったが、おいやんは笠田に出かけたとかで家にいなかった。おばやんが「こい食べるか?」と、ビニール袋に入ったのを差し出してくれた。見ると、そこ豆を炒ったのが入っている。畑で採れたやつで好物だ。
 割って豆を取り出して口に入れると、そこらにある市販のピーナッツとは似ても似つかぬ美味しい味だった。

 89才になるおいやんはまだ車を乗り回しているらしい。今日も玉ねぎの苗が入ったからと笠田の町まで取りに行ったという。おばやんが携帯の番号を教えてくれたのでかけてみた。僕だと分かってびっくりして、いまから帰るわという。町から40分はかかるので、僕も降りてゆくので途中の「コンニャクの里」で会おうとなった。

 おいやんは声も姿もすきっとし、勢いがあった。「100才まで生きたら国が表彰してくれるようやから、そこまでは頑張るわ」と笑った。生まれ故郷の南紀州の山里にはもう知りあいはいないという。「共産党を応援してた知り合いもほとんどおらんようになったけど、そいでも最近は伸びてるなあ」と嬉しそうにいった。こんどはゆっくり話そらようと別れた。
 高野山の辺りはもう晩秋の気配、寒さがやってきていた。



写真・おいやんとおばやんが住むところ(赤い標)
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# by hara-yasuhisa | 2016-10-30 16:06 | Comments(0)

 香りたつ金木犀

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 今朝、風が涼しい。
 かすかに金木犀の甘い香りが漂ってくる。

 金木犀の香りは、どこからともなく忍び寄ってくるもの。花がどこにあるの分からないが、その香りはことのほか甘く、更けゆく季節を感じさせる。

   散文をバラにたとえるなら
   詩はバラの香り

   と、谷川俊太郎は言った。

 散文は花のように美しく、詩の香りはすごくいいと、そういいたいのだろう。だが一方、「言葉を失った瞬間が 一番幸せ」と歌うのは宇多田ヒカル。恋を歌って、これも分かるような気がする。 

 だけど、やはり香りたつような詩を書きたいと思う。



 (「つどい」への道に咲いていた金木犀の花)
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# by hara-yasuhisa | 2016-10-21 13:06 | Comments(0)

 風にふかれて

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 ♪学生でにぎやかなこの店の 片すみで聴いていたボブ・ディラン♪  
懐かしい曲がラジオから流れている。河原町今出川界隈の喫茶店で、PPMの歌う「風にふかれて」を聴いたのは遠いむかしのこと。

 彼がこの曲を作ったのは20歳のとき。60年代から70年代へと、ベトナム反戦運動の国際的な広がりとともに世界中で歌われ、いまも歌われている。抒情をおびた反戦の芸術である。

 ストックホルムの「ノーベル文学賞」選考委員会がことしの受賞者にボブ・ディランを選んだ。この賞そのものには、過去からいくつかの問題も言われているが、このタイミングでのボブ・ディランの受賞には意味がこめられていると、そんなことを思った。

 75歳になる老シンガーご本人が受賞をどう思っているのかは知らないが、メロディや詩そのものが持つ魅力が引き寄せたんだろう。今宵、ほんとに久しぶりに「風にふかれて」を聴いている。




 (写真・東紀州の海岸)
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# by hara-yasuhisa | 2016-10-14 22:22 | Comments(0)


折ふしのうた


by hara-yasuhisa

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