お燈まつり

e0258208_1242840.jpg


  路地をまがると
  屋根の間からご神体が遠くに見えた
  白装束の「上がり子」たちが
  わたしを追い越してゆく
  弟も
  まだ小さなころから
  何度となくこの路をとおり
  あの山に登った

  お燈まつりと那智の火まつりは
  欠かしたらあかんね
  大きくなってからは
  そんなことを言っては出かけた
  きょう
  草鞋をはき
  松明を手にした「上がり子」の群れが
  路地から路地をぬけて
  社(やしろ)をめざし流れてゆく

  いまごろ
  弟は神倉のあの山のどこにいるんだろうか
  お燈まつりは
  よみがえりのときという
  夕暮れの街の路地から
  わたしはご神体を見上げながら
  翔
  弟の名を小さく呼んでみる

  たのむで〜 カチ!
  たのむで〜 カチ!
  松明を斜めにぶつけあう
  ちょっと壊したほうが
  火がつきやすいんや
  弟はそんなことを言っていた
  神社への路のそこここに
  「花」が落ち風に揺れている

  肌をさわる空気が冷たくなり
  やがてまつりのときが迫る
  白装束の人々は
  もはや群衆のかたまりとなった
  弟は
  あそこからは闇の世界
  うつつの世とは
  まるで違うところだと笑っていた

  わっしょい わっしょい 
  わっしょい わっしょい
  神倉の山にのぼり
  「上がり子」たちは
  そこで何を見るんだろうか
  やがて 
  おおおお~というどよめき
  ついたあ! ついたあ!
  声が重なって闇にひびく

  ぼおおおお~
  ぼおおおお~
  闇を焦がす炎
  松明に火がつき
  火が火をよび
  「上がり子」たちが飛ぶように駆ける
  あんな風に
  きっと弟も
  この岩道を駆け下りたんだろう
  あのときは普通やない
  新宮の男にしか分からん
  それが口癖だった

  翔
  おねえちゃん 帰るね
  わたしはまだ新しい墓石に
  来年も来るよ
  そうつぶやいてふり返った
  熊野灘の海は
  真っ青にかがやいて
  南からの陽の光をあびて
  新宮の街を抱いていた
[PR]
# by hara-yasuhisa | 2016-02-07 12:46 | Comments(0)

 寒のイズスミ

e0258208_11472944.jpg


 真冬、僕が目の色を変えて追い求める魚がある。 

 あれはいくつの頃だったろう、まだ年端もゆかない時分だ。寒い晩に親父がすき焼きにして食べさせてくれたのがこの魚。それからだ、冬が来ると親父にこの魚のすき焼きをせがんだものだった。

 この魚は磯の岩礁域ではどこにでもいるポピュラーな魚だ。ところが、磯釣り師の間では最も嫌われる。なぜかというと、グレ(メジナ)釣りの外道だからだ。グレと同じところを泳ぎ、グレよりも先に餌を食う。グレの引きはほぼ一直線にスマートに引くが、こいつは引きも荒々しく激しい。ガツンと手にひびく当たりがくる。当然、ハリスも傷つく。

 この魚は「まずい」との定評があり、多くの人々がそれを信じている。無理もない、春夏秋の季節に食べると、お世辞にも「うまい」とはいえないからだ。しかし、真冬、特に寒の時期に、こやつの味は一変する。このすき焼きを一度食べたら絶対に忘れられない。しかし、それを知っている人はそう多くない。

 故郷を離れて遠くで暮らしていた叔父が病に臥せったとき、「いっかいでええから死ぬまでにあの魚のすき焼きを食べたい」と懇願してきた。さっそく真冬に手に入れクール便で送った。叔父はすき焼きの鍋を美味しそうにつついたという。
 
 スズキ目イスズミ科、標準和名イスズミ。どういうわけかは知らないが南紀州では「イスズミ」といわず「イズスミ」と前の「ス」が濁る。

 親父は「寒のイズスミは一貫目(3.75キロ)を超えんとあかん」とよく言っていた。このクラス以上になると、肉だけでなく皮も内臓も美味なのだ。

 このところ寒に入ってきたが、この冬、こいつのすき焼きをまだ食べていない。
[PR]
# by hara-yasuhisa | 2016-01-21 11:56 | Comments(0)

 トンネルの向こう

e0258208_2145243.jpg


   きょうのはデカイわ
   シシがふえすぎたわ 
   とっくに70を過ぎたそのおいやんが言った
   山に入ってみたら分かるて
   間引きしてない山の中は真っ暗や
   地べたはむき出しのかわいた土や
   シシのエサらなんにもない

   むかしから木の国て言われてるのに
   どの山も放ったらかしや
   人間も暮らせんようになったけど
   シシもシカも暮らせんよ
   あいつらももう行く場所がない
   仕方なしに撃ってるけど
   気色のええことと違うよ


   このトンネルの向こうは
   幾重にもつらなる奥熊野の山々
   シシ撃ちのそのおいやんは
   去年は150頭しとめたという
   そいでもおっつかんわ
   里に来てたらふく食ってるさか
   あいつら体がデカなったよ

   もう アカンて 
   おいやんは語気つよく吐きすてた
   50年以上もこの山に入ってるけど
   もう大地が生きてない
   むかしの山に戻さんと
   動物も人間も
   だあれもおらんようになるて
[PR]
# by hara-yasuhisa | 2016-01-06 21:11 | Comments(0)

 冬の風に

e0258208_16415466.jpg


  三〇軒あまりあった僕の里は
  もうたった五軒だけになった
  老夫婦の家のほかは
  みんなひとり暮らしだけど
  和歌山の姉のところにも
  大阪の僕のところにも
  母は身を寄せようとしない

  風のない穏やかなこの里の家に
  母とふたりきりの正月
  姉と手をつないで登った
  裏山の尾根につづくあの小径を
  高速道路のような道が寸断し
  そこだけは別世界のように
  すごいスピードの車が通る

  あの頃はいつも
  玉置山へも北山村へも
  姉が手を引いてくれた
  九十九折りの山径に疲れると
  真っ青な空を見上げ
  まわりは山ばっかりやなあというと
  姉はいつも笑っていた

  もう少しすると
  峪(たに)の木立ちにウグイスが来て
  あの透き通るような啼き声が聞こえる
  八〇に近い母がコメ作りをやめ
  田んぼに生い茂った雑草が
  冬の風にゆれていた
[PR]
# by hara-yasuhisa | 2016-01-02 16:46 | Comments(0)

 東芝ひろあきさんの「カサブランカ」によせて

e0258208_12111160.jpg

 
 この物語の舞台は1941年のフランス領モロッコの港町カサブランカ。ヨーロッパでは第二次大戦が始まっていたが、アメリカはまだ参戦していない。40年の6月にはナチス・ドイツがパリを制圧、ドゴール将軍はイギリスに亡命し、フランスに親ナチスの政権が生まれていた。

 そんな時代のフランス領モロッコのカサブランカ。自由の国アメリカへ亡命しようとする人々がこの港町にやってくる。だけど、カネのない人々は足止めをくらっていて、この物語の主人公・リックの経営する飲み屋に入りびたる。そこには、親ナチスの警察署長やドイツ将校も出入りし目を光らせている。

 とまあ、そんなところに自分の店にイルザが夫と共にやってくる。リックにすれば、イルザは理由も告げずに消えた女。それが夫とやってきたんだから、これはもう面白くない。案の定、リックの胸は乱れに乱れる・・・
有名な『君の瞳に乾杯』というせりふを、リックはイルザに4回も言っている。言われたイルザの瞳は、この愛が成就しないと知っているから潤んでいる。

 We'll always have Paris・・・「俺たちにはパリ(の思い出)がある」・・・この物語のリックとイルザについてはこのせりふがすべてを表しているといっていい。 ”パリでの日々が胸にあるだけで、それだけで生きていける” そう言いきれる愛がパリでの二人にはあったんだと思わせる。

 そのパリで二人に何があったのか、映画ではごくごく暗示されているだけだ。それゆえ、イルザの魅力がいまいち鮮明にならない。だけど、「We'll always have Paris・・・俺たちにはパリがある」と、この言葉には、第二次大戦下の時代の激動に翻弄されながらも、運命の愛に生きようとするリックの哀しく切ないまでの決意がこもっている。
[PR]
# by hara-yasuhisa | 2015-12-19 12:15 | Comments(0)

 いつまで夫婦同姓の強制なのか

e0258208_14545673.jpg


 なぜ、世界で日本だけ「夫婦同姓」義務づけなのか?

 世界中で認められている女性の権利が、この国ではなぜ受け入れられないのか。夫婦別姓をめぐる12月16日の大法廷判断は明らかな時代錯誤だ。

 憲法24条は、
 「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と定めているが、

 安倍首相は、
 「夫婦別姓は家族の解体を意味します。家族の解体が最終目標であって、家族から解放されなければ人間として自由になれないという、左翼的かつ共産主義のドグマ(教義)。これは日教組が教育現場で実行していることです」(「WiLL」2010年7月号)という。

 選択的夫婦別姓を望んできた多くの女性にとって、ただ自分の歴史を刻んできた姓を変えたくないという理由から制度化を希望している。安倍首相はそうした国民の声を「家族の解体が最終目標」と罵り、それが共産主義だという。ならば、いま世界中が共産主義の国なのか。

 選択的夫婦別姓は98年、02年、10年と国会で導入が検討されたが、その度に自民党が強く反対した。その反対の中心にいたのが安倍首相だ。自民党改憲草案では、第24条の前に次のような文言が追加されている。
 《家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない》

 これは何を意味するのか。個人の尊厳や男女の平等よりも家族が優先されるということだ。女性の人権を認めず、個人を家族でしばり、国家の一部として機能させようとする考え方である。

 安倍首相は、「一緒に暮らす家族、(中略)今日の自分を育んでくれた日本の歴史や文化、伝統、そういうものを虚心に大切と思う心こそが日本を守り、われわれが自ら起つことにつながっていく」(「正論」04年11月号)ともいう。
 「日本を守り、われわれが自ら起つ」。この「起つ」が何を意味していることか!
 

 明治憲法下での「家」制度では、家長が家族を統率し、家長の地位と家の財産は、原則、長男子が承継した。家族は家長の同意がなければ婚姻できないし、家の存続が何よりも重視され、妻に子どもができない場合には、夫は妻以外の女性との間に子をもうけ、後継ぎを確保することも許された。

 エンゲルスは「家族・私有財産・国家の起源」で経済的条件を基礎に発展してきた家族の歴史を分析した。
 明治憲法下での「家」制度は、一夫一婦婚とはいっても、男性が自分の子どもに財産を相続させることを目的とした「打算婚」であった。それゆえに夫には不貞の権利があっても妻にはなかった制度なのだ。

 エンゲルスは、
 人間が経済的な打算から解放された社会では、一夫一婦婚から (1)男性の優位と (2)愛情が失せても離婚できないということが消え、真の一夫一婦婚が生まれ「愛にもとづく結婚だけが道徳的であるならば、愛がつづいている婚姻だけがまた道徳的である」と、そう喝破した。
 「個人的性愛」だけが二人を結びつけるのだという。

 夫婦同姓を強要する制度は人権を侵害している。いつまで夫婦同姓の強制か―カビのはえた戦前の「家」制度への回帰を許してはならない。
[PR]
# by hara-yasuhisa | 2015-12-17 15:01 | Comments(0)

熊野は辺境の地

e0258208_1548320.jpg


 イザナミノミコト(妻)は、イザナギノミコト(夫)と力を合わせ、日本列島をつくりました-『日本書紀』。

 そのイザナミのお墓がご存知の三重県熊野市にある「花の窟(いわや)」。現地に行ってご覧になった方もおられるだろう。70m~80mの巨岩で、『日本書紀』には次のように書かれている。

 イザナミノミコトは火の神を産むときに陰部に大火傷を負い死んだ。その遺体は熊野の洞窟に葬られた、と。さらに言えば、妻の死に怒った夫のイザナギは、生後間もない火の神を殺してしまう、と。殺されたその子の墓もここにある。

 女性器から火が出るという話は南の国々にもあり、専門家の間ではよく知られている。太古の昔、火を起こすのは木と木をこすり合わせる方法で、これが男女の性行為に似ているとか。これはこれで面白い話なのだが、詳しいことはここでは省く。

 熊野市の「花の窟」では、いまでも毎年2月2日と10月2日に花をあげ、地元の少女が舞を捧げる。

 日本書紀の8年前に書かれた『古事記』ではどう書かれているか。イザナミのお墓は、「出雲国と伯伎国との境にある比婆の山」だという。 いまの広島県の比婆山がそれで、そこに熊野神社という名の神社がある。

 人間は火を使って金属器を作り、森をきり開いて農耕をし、土器を作ったり、食物を調理するようになった。火の発見により人類は飛躍をとげ、文化を築き上げてきた。

 しかし、太古の人たちは、火で焼畑をつくり、森をきり開く、つまりそれは自然を傷つけることであり罪悪感と恐れを覚えた。母なる大地なしには生きていけないのだが、人間はしかし、その母なる自然を破壊して生きてきた。

 熊野の山々は三千六百峰といわれ、ほとんどが山林に覆われ、平地はほとんどない。山からいきなり海に出るような地形が多い熊野は、人が農耕をして暮らすには不便な場所だ。

 それゆえに開発を免れた熊野は、ほぼ全域をシイやカシなどの照葉樹林に覆われていた。 都の大和びとから見たら、熊野は山々のはるか彼方にある辺境の地だった。

 熊野の地名が初めて登場する文献は『日本書紀』。 大和の人びとは熊野を死後の世界に近い場所と考えていたようだ。

 時代がぐっと下り、さまざまな宗教が広がるもとで、本宮は阿弥陀如来の西方極楽浄土、新宮は薬師如来の東方浄瑠璃浄土、那智は千手観音の南方補陀落(ふだらく)浄土の地だとされた。

 こうして熊野3山の地は「浄土」の地とみなされるようになった。 熊野が広くその名を知られるようになるのは、院政期、上皇や女院による熊野御幸(くまのごこう)が行われるようになってから。上皇たちの熊野御幸は年中行事になり、熊野は浄土信仰の日本一の大霊験所になっていった。


 さて、武士が世の中の中心勢力になった頃から、熊野御幸は衰退したが、熊野信仰そのものは衰えなかった。武士も庶民も熊野詣をするようになり、「蟻の熊野詣」などと、蟻が行列をなして行き来する様にたとえられた。

 「熊野」という地名が何を意味していたのか、その語源には諸説があります。主なものは、
 ・「クマ」は古語で「カミ」を意味し、「神のいます所」だとの説。
 ・「クマ」は「こもる」の意で、「神が隠る所」の意だとする説。
 ・「クマ」は「こもる」の意で、「死者の霊魂が隠るところ」だとする説。
 ・「クマ」は「隅(くま=すみ)」で、都からは辺境の地だとする説。

 どの説も山々が連なり、鬱蒼とした森がつづく、陽のあたらない地というイメージだが、それは大和の都から見た話であって、実際は、熊野の地には南からの風が入り、南国の陽の光がさんさんと輝く、海の幸と山の幸に恵まれた大地があった。

 その熊野の大地はいま、うちつづいた国策の誤りによって崩れようとしている。

(写真は、熊野灘にそって約25kmつづく七里御浜)
[PR]
# by hara-yasuhisa | 2015-11-06 15:59 | Comments(0)


折ふしのうた


by hara-yasuhisa

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

ホームページ
e0258208_23203916.jpg


原やすひさの動画はこちら

最新の記事

もの言えば
at 2017-05-31 22:00
 戦争には行かせない
at 2017-05-03 20:00
 ゆう(息子)の誕生日
at 2017-04-07 09:55
 若い世代と学習
at 2017-01-27 16:06
 ああ、稀勢の里
at 2017-01-23 21:33
 もっと日本語を
at 2017-01-20 22:52
 新しい日
at 2017-01-04 14:53
  いざ
at 2016-12-24 14:23
 須江の風
at 2016-12-19 09:35
 太宰治について問われて
at 2016-11-19 14:03

以前の記事

2017年 05月
2017年 04月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 08月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月

最新のコメント

親父は今ある病気で同じ和..
by しもかわ at 23:33
親父からの伝言 こんどの..
by さちよ at 20:47
嬉しい報告です。 共に..
by 中津たかし at 23:50
ろうそくの灯りって、なん..
by 弘井淑子 at 23:27
ですね、負けてたまるか、..
by 弘井淑子 at 00:28
もうちゃん、お変わりござ..
by hara-yasuhisa at 22:47
日本共産党応援ネット勝手..
by 琵琶玲玖 at 18:05
原ちゃんの才能には雑帽 ..
by もうちゃん at 19:15
土佐のことばもいいですね..
by hara-yasuhisa at 21:49
ヤマモモの木は「はそい」..
by 弘井淑子 at 23:43

検索

画像一覧


アクセスカウンター