読書は最大の快楽
禁読はいろいろな「禁〇〇」のなかで一番の苦痛だと、かつて山本周五郎は言った。
どうだろうかご同輩。
禁酒、禁煙・・・よりも、周五郎は本を読むことを禁じられるのが最大の苦痛だという。
読書といっても色々な読書がある。
なかでも、小説を読んで得られる幸せは、読むことによって別の人生を経験することが出来るということだろう。多くの小説は、自分の現実の暮らしでは経験できないことを可能にしてくれる。
その人が大変に珍しい経験をしてきた過去を持っていたとしても、それでもその範囲は自ずから決まっ
たものだ。それゆえに、小説で描かれている世界は自分には未知のもので、実際の生活では体験しないことに出会い、それによって世界が広がるのである。
周五郎はこうも言っている。読書というのは人間が創造したもっとも価値の高い快楽だ、と。僕は小説を書く身なのだが、書く時間と読む時間を比べると、読む時間のほうが多い。これはもちろん書くために
読むのだが、そうではあってもそこで得られる快楽はやはりすごいものがある。
周五郎の足元には遠く及ぶものではないが、それでも彼のことばは一条の光を放っている。
#
by hara-yasuhisa
| 2023-03-26 22:23
『南紀州ー荒南風のとき』余話
『南紀州ー荒南風のとき』余話
荒南風(あらはえ)って何なん? との問いがけっこうありました。
白南風(夏に南から吹く乾いた風)や黒南風(湿った風)はまま使われます。荒南風は
そこから来たことばで、読んで字のごとく荒れる風ー激動する時代ーという意味です。
物語は、アジア諸国へ戦争をしかけてゆく暗い時代から始まっています。その時代に、
西富田(白浜町堅田)で起きた砥石(といし)労働者のたたかいと、その労働争議に巻き
こまれた萩原一家の戦前から戦後にかけての物語です。次はその冒頭の一節です。
ーまだ夜が明けていなかった。南紀州の山々は古くから三六〇〇峰と呼ばれてきたが、
その山々や各地に散在する村々を激しい春の風雨が襲っていたー
この富田砥石労働争議は南紀州における戦前の三大労働争議のひとつとして有名で、小
説を読んだ人たちから、「講演会に来てほしい」とか「砥石を作っていた現場を案内して
ほしい」などの声があり、作者として講演に出かけたり、いまはもう茫漠とした風のなか
構成は、第一部・灰色の雲 第二部・遥かな南紀州 第三部・嵐の時 第四部・めぐり逢い
「本の泉社」出版 本体2200円 2020年12月10日初版 2段組374頁
#
by hara-yasuhisa
| 2023-03-25 20:45
読者からの感想
ぼくの新作の小説『果無の道』を読んでくれた方からお便りをいただきました。転載します。
////////////////////////////////
『果無の道』の感想。
もっとも印象深く心に残ったのは、当たり前のことだけど、自民党政治による生活の苦難は自民党の党員にも覆いかぶさっているということです。だから、大きな問題がその人たちに降りかかってくると、自民党ではなく共産党に頼らざるを得なくなる、その辺りのことが物語の進行で自然に描かれていると思います。
主人公の綾と隣家の敏子、海宏一、この人たちの会話がおもしろい。生活がそのまま表現されていて、読む側には心地よく響きます。その心地よさが展開の早さと相まって全編を吹き抜け、読後、心に軽やかさを与えてくれます。共産党の実際の活動を知らない人たちには新鮮に映るだろうし、苦難を切り拓く方途はあるのだと希望を与えてくれると思います。
原田裕子さんの話しぶりは秀逸です。ドイツの林業の取り上げもさすがだと思いました。全国でも同じようなことがあると思いますが、そんなことに思いを馳せると随分と勇気が出てきます。『果無の道』がそういう人たちと強く結びついているのを感じます。
「あとがき」にある「作中の党員たちは悩みながら、求めながらいまを生きています。そのことによってまた未来を生きています」という言葉は、渦中を通り過ぎてきた者でなければ書けないことだと思いました。
#
by hara-yasuhisa
| 2022-06-29 21:20
苦闘と希望を描きたい
ほぼ二年前に書きはじめた長編小説『南紀州』。今回、三部目が出版され完結した。
著者のぼく自身も予想していなかった、長編どころか大河小説の長さになってしまった。
『南紀州』の三部作を通してぼくが描きたかったこと、ひとことでそれを表すとすれば、その時代の苦闘と希望ということでしょうか。最初、それを一冊の長編小説にしようと考えていたのですが、出来上ってみれば三倍の長さになり、時代も丁度100年間、四世代にわたる萩原家の人たちの物語になってしまいました。
年老いた読者の方は、ご自分の青春時代や親の世代が体験した戦前・戦中の苦闘に思いを馳せていますし、若い世代の方からは「こんな話、ちょっと前の時代のことやのにまったく知らんかった」などの感想をいただく。三部作完結編の『良の季節』はほぼ現代の主人公の苦闘を描いているのですが、どんな感想が寄せられるのか楽しみです。
各地に取材に出かけましたが、やはり印象に残っているのは海外への一人旅です。これまで海外に行ったことがありませんから、難儀をすることが多々ありました。ベトナムでもウクライナでも、現地に行ってみないと分からないことだらけでした。片言の英語しか喋れないのによく行ったなあと自分でも思います。
しかし、現地に行ってみないと分からないことがたくさんあります。こんなことなら、もっと若い時代から世界を旅しておけばよかったのにとつくづく思います。ハノイでもキエフでも、そこの人たちは暖かく親切でした。とくにいま、知り合ったウクライナの人々はどうしてるんだろうかと心配です。
ロシアは、ウクライナがNATOという軍事同盟に加わることを嫌っています。その気持ちはわかります、しかし、その国の運命はその国が決めることです。気に入らないから武力で従わせるやり方は間違っています。それが民族自決権というのもでしょう。
話が反れましたが、色んな人たちの苦闘と希望をもっと描きたいと思っています。文学は何ができるのか、なにを成すべきなのか、その探求をつづけたいと思っています。
#
by hara-yasuhisa
| 2022-02-15 12:12
衆議院選挙雑感
結果が判明して、「予想が外れたなあ」と思っている人が多いのではないだろうか。かく言うぼくもその一人です。
自民党が、大小の幅はあれ議席を減らすことは十分予想されました。また、れいわが議席を獲得することも予想されました。
問題は立憲民主党と日本共産党がどこまで前進するか、個人的にはそこに注目していました。
しかし、結果は違っていました。
自公の減りが少なく、維新の会が大きく躍進する結果が出ました。さらに立憲と共産党が減りました。選挙後、「選挙区は野党に入れたが、比例は維新に入れました」と告白する知人が数人いました。これは何を意味しているのか?
政治を変えて欲しい、その流れというか風が維新に吹いたということでしょう。その背景には、野党共闘が国民の不満の十分な受け皿になっていなかった、この問題があると思います。確かに、「連合」をめぐるバタバタした動きは野党共闘の魅力を大きく損ないました。
魅力がなかったので、投票率も上がりませんでした。
野党共闘がもっと魅力的なものになっていたなら、投票率が上がり、結果は大きく違っていただろうことは容易に想像がつきます。そんな弱点をもちつつも、候補者を一本化したところで勝利した小選挙区が増えたし、ギリギリで競り負けた選挙区も50数区あるというのは、次回の手応えという感じがします。
さて、維新の会です。
自公はもう嫌だけど、さりとて立憲も共産もいまいちだし・・・と思った層が維新に流れた、ということでしょう。維新の政策に共感したからではないと思います。この間、自民党に劣らないほど、維新の議員にも不祥事が多くありました。それでも、得票が多かった理由は、保守的無党派層の受け皿となったということでしょう。
最期に、市民と野党の共同はこの衆院選挙で共通政策でも、選挙協力でも、政権構想でも、これまでの到達からさらに発展させて選挙をたたかいました。しかし、まだまだ不十分な点が多々あることを浮き彫りにしました。何が不十分なのかは、言わずもがなでしょう。
ただ一言だけつけ加えると、政権を代えるという本気度が足りない、足りなさすぎる、と思いました。その責任の大半は野党第一党の立憲民主党が負っていると思います。
#
by hara-yasuhisa
| 2021-11-03 13:39
折ふしのうた
by hara-yasuhisa
S | M | T | W | T | F | S |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | |
7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 |
14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 |
28 | 29 | 30 | 31 |
原やすひさの動画はこちら
最新の記事
読書は最大の快楽 |
at 2023-03-26 22:23 |
『南紀州ー荒南風のとき』余話 |
at 2023-03-25 20:45 |
読者からの感想 |
at 2022-06-29 21:20 |
苦闘と希望を描きたい |
at 2022-02-15 12:12 |
衆議院選挙雑感 |
at 2021-11-03 13:39 |
仁坂・和歌山県知事の「シング.. |
at 2021-07-14 14:22 |
『枝野ビジョン・支え合う日本.. |
at 2021-06-24 16:31 |
『人新世の「資本論」』(斎藤.. |
at 2021-05-23 00:25 |
丸本安高さんの死 |
at 2021-01-24 13:51 |
長編小説のこと |
at 2020-11-27 11:52 |
以前の記事
2023年 03月2022年 06月
2022年 02月
2021年 11月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 01月
2020年 11月
2020年 09月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 02月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 08月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月