ヴェトナムとウクライナと
『戦争の悲しみ』の著者、バオ・ニンをハノイの自宅に訪ねたのは4年前の初夏でした。この物語のキエン、その恋人のフォンを、彼はどう描こうとしていたのか。ぼくはそこを聞いてみいとずっと思っていたからです。
バオ・ニンは、「人間も、その歴史も、一つのイデオロギーで裁断できるような単純なものではなく、美醜とりまぜた存在であり、楽観と悲観とは背中合わせで、戦争の勝者もまた悲しみを運命づけられた存在」と言う。
戦争は殺戮と破壊であり、私たちヴェトナムは好んで戦争をしたのではなく、ヴェトナムはそれを強いられたんだと強調しました。 「なぜ、命がけで戦ったのか」― 戦後の世界に、平和に生きることができる世界に希望を見たからだ、と。
けれども、外敵に屈しなかった気高い人びとに、戦後、安らぎは戻ったのか。絶望と狂気と別離が人びとを見舞った。「私はそのことをあるがままに書きました」と言いました。そのあるがままだが、主人公のキエンとフォンの物語はあまりにも悲しい。
その一年後、ぼくはウクライナのキーウを訪ねました。折しも、新たにゼレンスキー大統領が誕生したときでした。どうしても足を運びたかった東部の街や村は、旅ができる状況にはありませんでした。首都キーウにもただならない空気が漂っていました。
プーチン政権は、侵略を開始したその時点で、敗北する運命を背負いました。僕の知るウクライナの人々は独立と自由は死んでも渡さないと言います。けれども、ここでもまた、かつてのヴェトナムがそうであったように、戦争が終わったとしても元通りの平和は戻りません。
ハノイでも、キーウでも、「日本は戦争を捨てた国だ」と多くの人びとから握手を求められました。その場面を思い浮かべる度に、いま日本が何をしなければならないのかを考えます。そして、物語を作る者としてどんな文学を想像しなければならないのかを考えます。
折ふしのうた
by hara-yasuhisa
S | M | T | W | T | F | S |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 |
最新の記事
読者からのメール |
at 2025-02-02 10:42 |
小説『新鹿の浜辺』へのメール |
at 2024-02-11 14:03 |
熊野の美しさ |
at 2024-02-04 13:20 |
臨済宗妙心寺派泉昌寺 |
at 2023-09-17 10:38 |
小説の意義 |
at 2023-09-06 15:50 |
小説・太平洋食堂 |
at 2023-08-22 10:56 |
ヴェトナムとウクライナと |
at 2023-08-13 10:24 |
川端康成の志 |
at 2023-08-05 14:37 |
北山の月あかり |
at 2023-07-08 15:03 |
友人の訃報 |
at 2023-07-05 13:08 |
以前の記事
2025年 02月2024年 02月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 03月
2022年 06月
2022年 02月
2021年 11月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 01月
2020年 11月
2020年 09月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 02月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 08月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月